オブラートは、ジャガイモやサツマイモの澱粉からつくる「植物性の多糖質水溶性可食フィルム」で、分類としては食品になります。主な用途は、薬の服用補助や菓子類の包装です。澱粉そのものは水に溶けず消化しにくいのですが、これを水に入れて煮ると、澱粉が糊状になり、消化吸収しやすい状態に変化します。これを澱粉のアルファ化と言います。
この澱粉糊をそのまま放置すると糊内部の水分が滲出して、再び消化しにくい状態に戻ります。これを、澱粉の「老化」と言います。
しかし、澱粉の「老化」は澱粉糊中に水分が残っていないと起こりません。澱粉糊の含水率が10~15%程度の、乾燥した状態では「老化」は起きないのです。
オブラートはこの性質を応用して、糊状になった澱粉を急速乾燥させてアルファ化を安定させた「食べられる薬包紙」と言えます。
前項説明のとおり、オブラートは澱粉糊を急速乾燥してつくるのでアルファ化の状態が長期間、安定します。
実際に経時製品のアルファ化度を検査したところ、下記の結果が認められました。
製造後1ヶ月経過 | 製造後5年以上経過 | |
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ジアスターゼ法 | 98% | 99% |
グルコアミラーゼ法 | 98% | 97% |
このように、オブラートのアルファ化度は下記の菓子類と比べても高い数値を示しています。
試料名 | アルファ化度 |
---|---|
ハードビスケット | 30.1~50.6 |
ソフトビスケット | 19.3 |
黒かりんとう | 91.0~94.3 |
あられ | 95.5~98.1 |
以前、あるTV番組で「オブラートで薬を飲んでも溶けず(消化されず)、薬が吸収されない」と言った誤解を招くような発言がありましたが、オブラート自体はこのように消化吸収の良いものです。
人体内では、オブラートは澱粉質なので小腸で吸収されると考えられます。
炭水化物 → 麦芽糖 → ブドウ糖
[管内消化] [膜消化]
先のTV番組での発言は胃で吸収されないと言う意味かもしれませんが、そもそもオブラートはそれ自体を消化吸収するのではなく、薬を飲みやすくするのが目的ですから、腹中でオブラートが「破れ」て薬が出てくれば、問題はないはずです。
誤解を招かないように改めて申しますと、胃の中でオブラートが「破れ」薬が出てくれば問題ありません。
当社で、水を入れたコップの中に粉末を包んだオブラートを入れて、ゆっくりと振る実験を行なって状態を観察したところ、9分以内にオブラートが破れて中身が出るのが確認されました。実際には、胃の中は体温で37℃位に暖められたPH1~2の強酸性の胃液(塩酸)の状態なので、もっと早い時間で「破れ」ると思われます。
上記のように、オブラートは糊化した澱粉を乾燥させて造るので、濡れると元の糊の状態に戻ります。この時、次の現象が発生します。
(1) 濡れたところにオブラートが付くと、糊としての性質からそこに貼り付きます。
(2)水の中に入れると、ゲル状になります。
具体的には、表面がツルツルしたトロミ状になります。 (トロミ状とは、片栗粉と同様の状態です。実際、市販の片栗粉は馬鈴薯澱粉を使用したものがあります。)
まず歴史的に言いますと、現在のオブラートは薬の苦みをマスキングするために日本で独自に発達したものです。本来はキリスト教の儀式に使われる、ウェハースの様なセンベイ状のものでした。このセンベイを水に溶かして薬を包んで飲んだのが、オブラートの始まりと言われています。
糖衣錠や顆粒が多くなる前は、苦い薬を飲み易くするためにオブラートが使われたと言ってもいいでしょう。しかし、現在でもオブラートが使われ続けているのは何故でしょうか。
今まで消費者の方々から
と、言ったご意見が寄せられました。
これらの原因は
(1)オブラートは澱粉質から造られているので、水に濡れた時に表面が溶けてトロミ状になった。
(2)このトロミ状が異物感を抑えたり、薬が喉を通り易くする嚥下補助の役割をした。
と、考えられます。
苦みのマスキングから始まったオブラートの効能が、嚥下の補助へと範囲を広げたのです。
オブラートは水に溶けますが、それ自体の特徴として
上記から、使用上の注意事項を申し上げますと
(1)濡れた手でオブラートをさわると、溶けてしまいます。
絶対に、濡れた手ではオブラートをさわらないで下さい。
(2) 薬を飲む時、オブラートをそのまま飲むと、口の中に貼り付いてしまいます。
薬を飲む際は、下記の方法をお勧めします。
(3) また、濡れたところにオブラートを置くと溶けてしまいます。
濡れたところには置かないで下さい。
(4) オブラートは乾燥に強く影響を受けます。
日光やエアコンの風があたるところ、暖房器のそばに置いたままにすると、オブラートが乾燥して破れやすくなります。